生活習慣病 治療法に挑む
生活習慣病 治療法に挑む
心臓が過労死をしない本当の理由を探り当てた
▼日本医科大学・柿沼由彦教授
心臓は2種類の自律神経にコントロールされている
- 「交感神経」~ノルアドレナリンを心臓に放出(アクセル)
- 心臓をより、働かせようとする物質
- 「副交感神経」~アセチルコリンを心臓に放出(ブレーキ)
- 心臓の働きをゆっくり、スローにする物質
- 心臓は一日に約10万回、生涯で約30億回の脈拍を打つ重労働。
かつては心臓の治療には、ノルアドレナリンを投与して心臓にムチを入れた。ところがそうすると、心臓は元気になるが、そのうち機能が低下し、活性酸素や他の有害物質により、病人の消耗を早めてしまう。活性酸素は猛毒で、細胞や遺伝子を損傷、老化を促進し生活習慣病の元凶になる。
逆にアセチルコリンの働きを強めて心臓を休ませる事が、よい結果が得られる事実が明らかになった。健常者の心臓が過労死しないのは、副交感神経が交感神経を抑制し、活性酸素の発生を抑えているからではないのかと考えられていた。
- 心臓における交感神経と副交感神経の分布
しかしながら、交感神経の割合が圧倒的に多く、ノルアドレナリンの分泌量が多過ぎて、アセチルコリンが心臓を休ませることは出来無い。それでは、交感神経と副交感神経で、バランスをとっているから、心臓は過労しないという仮説が成立しない。
この謎に整合性を求めるならば「心臓は副交感神経によらず、心臓自身がアセチルコリンを分泌している」との仮説を立て検証を始める。
2年が過ぎた2007年10月遂に、心臓によるアセチルコリンの生成を示す検証に成功。
30億年ほど前の、原始的な生物の一部は、細胞にアセチルコリンを含んでいる事が知られていた。生物に神経が発生したのが4億年前だから、ずっと以前のことである。しかし、原始的な生物がなぜアセチルコリンを、体内にもっていたのか謎であった。
心臓がアセチルコリンを生成する事実を知った時、これは、30億年前から脈々と受け継がれてきた命の持つ癒しのシステムなのだと。神経の様な後発のシステムより、遥か昔の原始生物の中に、生命の基本物質として存在していたのである。
出典:現代ビジネス?/心臓の拍動は「1日10万回」! なぜ休まず動き続けられるのか?
薬剤を使わずに心臓病治療へ
このシステムを、非神経性心筋コリン作働系として提唱し、
略して「NNCCS」と呼んでいます。
心臓にこうしたシステムがあるのなら、その機能を高めてアセチルコリンを増やせば、心臓によい効果があるのではないかと考えたのです。そこで、NNCCS機能を強化した生物の究極のモデルとして、心臓でアセチルコリンを大量につくれるように遺伝子を改変したマウスを作製して、さまざまな実験を試みました。
驚いたのは、このマウスに心筋梗塞を発症させたときでした。
マウスという動物は心筋梗塞に弱く、通常のマウスなら2週間後には半分以上が死亡してしまいます。ところがNNCCS機能強化マウスは、なんと9割以上が2週間後も生存していたのです。
NNCCSに人為的に介入して機能を高める有力な方法が2通り見つかっています。
ひとつは薬剤による方法で、もうひとつはもっと簡単な、ある物理的な処置による方法です。
薬剤を使わずにすめば、患者の身体にとっても、また経済的にも大きな負担軽減になりますので、現在はこの方法によってヒトにおいても同様の効果が得られるのかを、全力をあげて検討中です。特許のからみもありますのでまだ多くは申し上げられませんが、見通しは明るいと考えています。
出典:現代ビジネス